子供が映し出している家庭のパワーバランス。簡単に調整する方法

子どもが不登校になってしまった。という相談が時々あります。話をよく聞いてみれば、お父さんの意見とお母さんの意見とがあまりに違っていることに驚きます。いつから不登校が始まったのかについても意見が分かれているようなのです。

不登校になっている本人である洋子ちゃん(仮名)は、こちらから言葉をかけても反応がありません。目を合わせようともせず、ただ斜め前に視線を落としているだけ。ご両親と本人と私とが座っている小さな部屋はまるで凍り付いたような状況になっているのですが、これでもカウンセリングとすれば、半ば成功している状況なのです。西日がカーテンの隙き間から差し込んでいるこの部屋から不登校の治療は始まったのです。

不登校という現象は子どもからの強烈なメッセージです。当然、それは最終的手段ともいえるメッセージなのであって、子どもという立場から発信できるものとしては最強の部類だという意味です。ですから不登校がいつ始まったのかという時間に焦点を当ててもあまり効果は上がりません。子どもが不登校になるずっと前から不登校へと徐々にエスカレートしてきているといえるのです。

子どもが地団駄を踏んでヒステリックな鳴き声を上げている傍らで冷静な母親が何かを諭そうと試みている様子を電車の中で見かけた記憶はないでしょうか。子どもは親に対してメッセージを投げかけるものです。そのメッセージを親が受け取れないとき、そのメッセージの強度が強くなるのです。その最終形がヒステリックな子どもの鳴き声だといえます。その状況の子どもに対して何かをするということにあまり意味はないでしょう。

それと同様に不登校になってメッセージを出している子どもに対して、不登校そのものを問題視したアプローチには効果が望めません。そのメッセージを受け取ることが必要なのです。ご両親と洋子ちゃん(仮名)のそれぞれの主張を聞いている間、私の頭の中で『やぎさんゆうびん』のメロディーが鳴り続けていたことを思い出します。

子どものメッセージは関心を得たいということが主要です。親が子に対する関心を示すとき、それは子どもにとって安心・安全な環境を意味するのです。子どもでも大人でも安心・安全が生きていく上での最大の問題であることに変わりはありません。子どもにとってはその安心・安全は親からしか得ることができないということなのです。

ですから子どもが安心・安全の確認を求められたときにどれだけ早くそれに気づくことができるか、そしてどれだけ早く応じてあげられるかは子どもの成長に大きく関与するのです。親が子どものメッセージに鈍感だと、子どもは同様にメッセージに対して鈍感になることが期待できます。メッセージに対して反応が鈍いということはそのまま学習機会の喪失です。そして子どもの人間関係にまで影を落とすことになりかねないのです。

さて不登校のメッセージはもはや子どもが関心を得るだけでは足りないほど症状が悪化したことを示しています。なので安全・安心をアプローチしても、いまさら……といった反応しか引き出せないでしょう。子どもにとっての最大の危機に対する恐怖信号が不登校だというと言い過ぎでしょうか。つまり両親の不仲、断絶そして離婚に対する恐怖を感じていることを示しているのです。

そこでお父さんとお母さんに彼女の目の前で夫婦喧嘩を演技してもらいました。実は喧嘩すらできないほど、お父さんとお母さんの関係は冷え込んでいたのです。お互いの価値観のズレを調整する力を失い、二人で全く異なった社会生活を生きようとされていたのでした。するとあら不思議。洋子ちゃん(仮名)は一週間もしない内に学校へと行くようになったと報告を受けることができたのです。