現代では至る場で優良なコミュニケーションスキルが求められます。会社では上司に対しての報告・連絡・相談はもちろん、顧客に対するプレゼンテーションやアプローチ。それは学校でも同じことのようで、知り合いの大学生も差し迫った英語でのプレゼンテーション課題に頭を抱えているようでした。コミュニケーションに失敗すれば商談は白紙になり、プレゼンテーションに失敗すれば単位を落とすことになるのです。
これらのコミュニケーションでは罰則が伴い、一発勝負という要素を払拭することができません。しかし何かの技術に熟達するためには必ず、安全で安心な状況下での練習が必要になります。それが家庭の役割だといえるでしょう。家族以上に安心・安全な関係はないはずです。1度や2度のコミュニケーションの失敗が致命傷になることはあり得ないはずですよね。本当にそうあって欲しいと思います。
そこで家庭でのコミュニケーションこそが社会活動(会社での仕事、学校での活動を含む)におけるコミュニケーションの基礎になるというわけです。コミュニケーションには様々な次元があるのは当然です。あるコミュニケーションは何らかの目的を達するために仲間同士での恊働を追求することでしょう。またあるコミュニケーションは教授や同級生に対して何かの研究結果を共有してもらうことが目的になるのです。
そこで家庭でのコミュニケーションの目的を明らかにする必要があると思います。家庭でのコミュニケーションの一番重要な目的は感情の交流にあります。今、テレビの前に座っているお父さんをどのような感情が支配しているかわかりますか?またキッチンに忙しく動き回っているお母さんをどのような気分が支配しているか正確に想像できますか?
これらのことに正解はありません。お父さんに確認する必要があります。そしてお母さんに確認する必要があるのです。よく馴染んだ夫婦であればお互いの気分を即座に推察することができるともいいます。しかし、正解に辿り着けることが大切なのではなく、確認することが大切なのです。お互いの感情を確認し合うことはお互いの安全・安心を確認し合うことになるのです。
感情のコントロールを貴族の義務に数えていたのはかつてのフランスだそうですが、彼らに言わせれば感情のコントロールは最高レベルの知性がなければ不可能なそうで、それほど感情のコントロールは難しいのです。そしてこれほど厄介なものもないといえるでしょう。突然、頭にくることを瞬間湯沸かし器などと揶揄されもしますが、本人であっても事前に予測することもできないのではないでしょうか。
気分が優れず、感情が泡立つとき家族だからこそ助け合える唯一の時間だいうことができます。気分が塞ぎ込んでいる時というのは、どうすれば気分転換ができるのか思いつくことができない状態です。イライラしている時も同様なのです。話しかけてもろくすっぽまともな返事がない。コミュニケーションスキルを向上する絶好のチャンス到来です。感情に焦点を合わせた質問に切り替えましょう。「イライラしてるの?」
自分の陥っている気分を表現して客観視することを「外化」と言います。この時、「イライラしてるの?」という問いかけに対して応答しようとすれば必然的に自分の心の状態を内省することになり、外化することが可能になります。そうでなければ明らかな感情の高ぶりになって制御できなくなって初めて気が付くということになってしまいます。ですから「イライラしてるの?」という語り掛けは相手を支援していることになります。
お互いの感情を宥めるために何ができるでしょうか。このことを一緒に考える時、家庭内のコミュニケーションは始まるのです。